日本に住みながらリモートワークで海外の仕事を行いたい外国人にとって問題になるのが就労ビザです。海外の企業にリモートで勤めていたとしても、外国人が日本国内で報酬を得て働く場合には基本的に就労ビザが必要となります。
外国人が日本に滞在しながら就労するのに必要な法的要件
就労ビザの必要性
観光目的などで利用される短期滞在のビザや留学、研修、家族滞在などのビザは非就労資格ですので、日本に滞在はできますが就労はできません。海外企業へのリモートワークであっても、日本国内で仕事をするには就労ビザが必要となります。
就労ビザの種類と特徴
外務省は「就労や長期滞在を目的とする場合のビザ」を次の7つに分類しています:
高度専門職ビザ、就業ビザ、一般ビザ、特定ビザ、起業(スタートアップ)ビザ、外交ビザ、公用ビザ
これらのうち、一般の民間人に現実的に日本で就業の可能性があるのは高度専門職ビザ、就業ビザ、特定ビザです。
高度専門職ビザ
高度専門職ビザは、経済成長や新たな需要と雇用の創造に資することが期待される高度な能力や資質を有する外国人(高度外国人材)の受入れを促進するために2015年に創設さた、比較的新しいビザです。取得できるのは、高度専門職に対応する活動を行うことに加えて、学歴、職歴、年収、年齢、研究実績、資格、特別加算の各項目ごとに評価されるポイントの合計が一定数を超えると認められる外国人です。審査は日本の地方出入国在留管理局において行われます。
高度専門ビザは大きく「高度専門職1号」と「高度専門職2号」に分別され、それぞれ以下のような優遇措置が認められます。複合的な活動ができる点や、長期的な就労が可能な点から、労働者側にも雇用側にもメリットの大きなビザです。
<高度専門職1号の優遇措置>
- 複合的な在留活動の許容
- 5 年の在留期間の付与
- 在留歴に係る永住許可要件の緩和
- 配偶者の就労
- 一定の条件の下での親の帯同
- 一定の条件の下での家事使用人の帯同
<高度専門職2号の優遇措置>
- 高度専門職1号の活動と併せてほぼすべての就労資格の活動を行うことができる
- 在留期限が無期限となる
- 高度専門職1号の(3)から(6)までの優遇措置が受けられる
※「高度専門職2号」は「高度専門職1号」で3年以上活動を行っていた人が対象
就業ビザ
一定期間の日本滞在と、一部の就労が許可されるビザのことです。日本における就業ビザは16種類あり、それぞれ活動できる範囲が定められています。原則として、外国人はその在留資格に属する活動の下で許容される以外の収入を伴う活動を日本在留中に行ってはならないとされています。
<日本における就業ビザ16種類>
- 教授 大学教授など
- 芸術 作曲家など
- 宗教 僧侶など
- 報道 新聞記者など
- 経営・管理 社長や役員など
- 法律・会計業務 日本の資格を有する弁護士など
- 医療 日本の資格を有する医師など
- 研究 研究所等の研究員など
- 教育 小学校教員など
- 技術・人文知識・国際業務 IT技術者など
- 企業内転勤 同一企業の日本支店に転勤する者など
- 介護 介護福祉士の資格を有する介護士など
- 興行 演奏家など
- 技能 調理師など
- 特定技能 特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能/熟練した技能を要する産業に従事するもの
- 技能実習 海外の子会社等から受け入れる技能実習生など
それぞれ学歴または職歴と業務内容との関連性があることが要件で、数ヶ月〜数年の在留期間が認められています。
特に近年発行が急増しているのが技術・人文知識・国際業務のビザです。この資格に該当する業務には「理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」が含まれますので、エンジニアや通訳、マーケターなど一般の民間企業の業務に関連する幅広い職種が当てはまります。
特定ビザ
日本人の配偶者等や定住者、そして特定活動の従事者に対して認められるビザです。
「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」のビザには就労制限がありません。そのため就業ビザで求められるような専門性の高い業務でなくとも働けますし、複数の業種で同時に働くことも可能です。
特定活動には、外交官の家事使用人やワーキングホリデー、インターン、保養を目的としたロングステイなど約50種類の活動が含まれます。それぞれ数ヶ月〜数年間の滞在許可と条件によっては就労許可が得られます。特定ビザは種類が多岐に渡り、活動に該当するビザの特定や、取得に必要な要件の判断が複雑です。
上記以外の「就労や長期滞在を目的とする場合のビザ」の理由が難しい理由
- 一般ビザ: 一般ビザは主に留学や観光を目的としたもので、基本的に就業はできません。一般ビザに分類される留学ビザは入国管理局から「資格外活動の許可」を得ている場合に限りアルバイトが認められますが、週28時間以内という制約があります。また、当然日本の学校に入学する必要があります。
- 起業(スタートアップ)ビザ: 日本で起業する外国人のために近年新たに設けられたビザですが、審査など要件が非常に厳しく、2022年で年間12件しか発行されていません。
- 外交ビザと公用ビザ: 外交官や公務での訪問のために発行されるものですので、民間の業務のためには発行されません。
就労ビザ取得の要件
ここでは一般の民間人に現実的に日本で就業の可能性がある就労ビザとして、上記で解説した高度専門職ビザ、就業ビザ、特定ビザの取得要件をまとめます。申請者の国籍によって必要な書類が変わる場合もあるため、手続きの詳細は各国の大使館をご参照ください。
1. 高度専門職ビザ
高度専門職1号または2号に対応する活動を行うことと、「高度人材ポイント」70点以上をクリアすることが要件です。
<高度専門職1号・2号に対応する活動>
- 「高度学術研究活動」 : 日本の政府または民間の組織との契約に基づいて行う、研究や研究の指導、教育などの活動
- 「高度専門・技術活動」 : 日本の政府または民間の組織との契約に基づいて行う、自然科学または人文科学の分野に属する知識や技術を要する業務
- 「高度経営・管理活動」 : 日本の公私の機関において事業の経営を行う、または管理に従事する活動
<高度人材ポイントとは>
それぞれの特性に応じて「学歴」「職歴」「年収」などの項目ごとにポイントが設けられており、合計ポイント70点以上が求められます。高度人材ポイントは法務省令で定められており、たとえば博士学位を取得している場合、「高度学術研究活動」で申請するなら30ポイントが加算されます。同様に、職歴や年収、年齢、実績などでポイント数が異なります。また申請する活動によってポイントの内容やポイント数が変動します。
2. 就業ビザ
就業ビザは16種類に分かれており、それぞれ各職業の経験や資格を有すること、日本の組織と契約を交わしていることが求められます。たとえば「介護」のビザを申請する場合、日本の介護福祉士の資格と、勤務先等の情報が必要です。
3. 特定ビザ
特定ビザは主に日本人や永住者の配偶者、家族滞在など就業以外の目的で発行されるビザであり、条件を満たす家族などがいないと取得が難しいものですが、特定ビザのうちワーキングホリデービザは家族の要件に関わらず申請できます。なおワーキングホリデービザは年間発給枠が国ごとに定められており、発給枠上限に達した場合は、その年度内にワーキングホリデーのビザを取得することはできません。
ワーキングホリデービザが認められるためには以下のすべてを満たす必要があります。
- 日本とワーキング・ホリデー制度を導入している29か国・地域に居住していること
- 一定期間相手国・地域において主として休暇を過ごす意図を有すること
- 一部地域を除き申請時の年齢が18歳以上30歳以下であること
- 子又は被扶養者を同伴しないこと
- 有効な旅券と帰りの切符(又は切符を購入するための資金)を所持すること
- 滞在の当初の期間に生計を維持するために必要な資金を所持すること
- 健康であること
- 以前にワーキング・ホリデー査証を発給されたことがないこと
<日本とワーキング・ホリデー制度を導入している29か国・地域>
オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、英国、アイルランド、デンマーク、台湾、香港、ノルウェー、ポルトガル、ポーランド、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、スペイン、アルゼンチン、チリ、アイスランド、チェコ、リトアニア、スウェーデン、エストニア、オランダ、ウルグアイ、フィンランド、ラトビア
海外のリモートワークにあたって就労ビザ取得が難しい理由
日本に居住しながら海外でリモートワークを行う場合、以下のような理由から就労ビザの発給が困難となることが多いです。
- 日本国内に存在する機関との契約の証明が求められる: 各就労ビザ申請には、日本国内に存在する組織との契約関係を明らかにする書類が必要です。収入源となる勤務先が海外にしか存在せず、日本に拠点がない場合、要件を満たせないためビザ取得は非常に困難です。
- 日本国内に代理人が必要: ビザ申請の前段階で行う在留資格認定証明書交付申請は日本国内の出入国在留管理局で行います。そのため現在日本国内におらず、ビザ発給と同時に来日したい場合は、日本国内に代理人を立てて交付申請をしてもらう必要があります。すでに短期滞在の在留資格で日本に滞在している場合は、日本国内で短期滞在の在留資格から在留資格認定証明書で認定された在留資格に変更できる可能性があります。ただし短期滞在中に収入を得ることは原則的にはできません。短期滞在中は日本における受け入れ先を探し、ビザ変更について相談し協力してもらう必要があります。
- 在留資格の範囲が限定的: 日本での就労ビザは特定の職種や活動に限定されています。例えば、技術・人文知識・国際業務ビザは特定の専門職に対してのみ発行されます。海外のリモートワークがこのようなカテゴリーに該当しない場合、適切な在留資格を得ることが難しい可能性があります。
- 滞在目的の証明: ビザ申請時には、日本での滞在目的を証明する必要があります。海外の企業に雇用されている場合、日本国内での活動が主目的であることを証明することが難しい場合があります。
リモートの勤務先が日本国内に存在しない場合の対応策
これまでご説明してきたとおり、勤め先やクライアントが海外にあったとしても、外国人が日本からリモートワークをするには就労ビザが必要となり、高度専門職ビザや就業ビザを取得するには、日本国内に存在する組織や個人との契約を証明する資料が必要となります。そしてこのことが多くの外国人が日本からのリモートワークを諦める理由となっているのが現実です。
そこで、この問題を解決する一つの解決策として、「Employer of Record(EOR)」が注目されています。EORとは、外国人ワーカーがある国で働きたいが雇用主がその国に不在であるような場合に、EORプロバイダーがその国において代替的に法的な雇用主となり、雇用関連の業務を行うものです。つまり、EORサービスを利用することで、外国人が日本国内で正式な雇用契約を結ぶことが可能になります。
EORサービスの利用により、就労ビザの取得が必要な外国人も、日本国内での正式な雇用契約を通じて、合法的にリモートワークを行うことが可能となります。また、EORサービスは、企業が海外の才能と連携する際に直面する複雑な法律や税務の問題を解決するのに役立ちます。特に、日本国内で働く外国人労働者にとっては、ビザの取得だけでなく、社会保険や税金の手続きなど、雇用に関する様々な面でサポートを受けることができます。
EORは欧米で急速に普及しているサービスですが、日本国内でEORを提供できる会社はまだ限られています。No boundariesは日本特化型EORであり、グローバルなビジネス経験を持つコンサルタントや日本の弁護士がサービスを設計しているため、日本国内での雇用に関する独自の法律や規制に精通しており、外国人労働者と企業双方のニーズに合わせたサービスを提供できることが大きな強みとなっています。日本からのリモートワークについてお困りの場合は一度No boundariesにご相談ください。
本記事の監修者
真鍋希代嗣(No Boundaries Ltd. CEO / 京都大学 産官学連携本部 特任准教授)
ジョンズ・ホプキンズ大学 高等国際関係大学院(SAIS) / 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 修士。世界銀行やJICA、マッキンゼーなど複数の国際的な組織での勤務経験を有し、国内外の政府やグローバル企業向けに国際開発や経営のコンサルティングを提供している。日本のほか、米国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、イラク、ヨルダン、南アフリカ、ケニアなどに滞在し国際的な業務経験を有する。