日本への進出において必要になるのが日本での拠点です。日本への進出には駐在員の派遣や日本支店の設立という選択肢もありますが、営業活動が禁止されている、独立した法人格が得られない、など多くの制約があるため、日本法人を設立する方が日本国内でより柔軟にビジネスを展開できます。
本記事では、日本法人の特徴や設立の流れ等を解説いたします。
海外企業が設立できる日本法人
海外企業が日本で会社を設立する場合、株式会社か合同会社を選択するのが一般的です。株式会社と合同会社の特徴的な違いは以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | |
所有者と経営者との関係 | 所有と経営は分離 | 所有者と経営者は同一 |
株式発行による資金調達 | 可能 | 不可能 |
社会的な信頼性 | 高い | 低い |
設立に要する弁護士費用の相場 | 50万円程度 | 30万円程度 |
設立費用合計 | 68万円〜 | 36万円〜 |
設立に要する期間 | 概ね2ヶ月 | 概ね1ヶ月 |
- 株式会社
株式会社は、株式を発行して資金を集め、その資金を元手に経営する会社形態です。所有と経営を分離できることが株式会社のメリットの一つですが、出資者(株主)が経営者本人であっても構いません。現在、日本国内では合同会社より知名度と信頼性が高く、大企業ほど株式会社を選択する傾向にあります。ただし設立費用は合同会社よりも若干高額になりますし、手続きもやや複雑化します。規模の大きな事業を目指すのであれば、長期的には株式会社の方が適切でしょう。
- 合同会社
合同会社は、出資者と経営者が同一である会社形態です。株式会社とは異なり、出資者が経営するため、株主総会を経ることなくスピーディに意思決定が可能。設立手続きも比較的簡単で費用も抑えられます。しかし株式を発行できないため、資金調達方法が限定されます。上場もできません。また日本国内において「合同会社は資金が乏しい会社」という認識を持つ人が少なくありません。そのため信頼性が低く、取引先からの信用や優秀な人材を勝ち取るまでに時間を要するでしょう。
海外企業が日本法人を設立する流れ
海外企業が日本法人を設立するまでの流れを具体的に解説いたします。
(参考:JETRO 日本貿易振興機構)
- 株式会社
株式会社の設立には、概ね2カ月かかります。
- 商号の調査と作成
- 使用したい商号がすでに使用されていないか確認します。
- すでに国内で登記されている他の会社と同一の本店所在地かつ同一の商号での登記はできませんが、所在地が異なれば同じ商号での登録は可能です(商業登記法第27条)。ただし、他社と商号が重複すると、顧客が混乱するなど事業上の不都合が生じうるため、業種や地域が近い場合などは商号の重複を避ける方が賢明です。
- 同一商号の調査は「登記ねっと供託ねっと」などから実施してください。
- 定款作成
- 定款とは、法人の組織活動の根本規則のことです。最低限下記について定め、記載しなければならないとされています。
- 定款の記載事項は大きく3つに分類され「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」と呼ばれています。
- 絶対的記載事項:称号や所在地といった必ず記載しなければならない事項
- 相対的記載事項:記載がなくとも定款として成立するが、記載がなければ効力を発揮しない事項
- 任意的記載事項:定款以外でも定められる事項。記載がなくとも定款として成立する
- 親会社の各種書類準備
- 親会社の登記証明書等の取得及び親会社の概要に関する宣誓供述書、親会社代表者のサインに関する宣誓供述書等の準備を行います。
- 宣誓供述書には、本国公証人による認証が必要です。
- 公証人による認証
- 日本国内の公証役場で認証を行います。公証役場に出向けない場合は、代理人による手続きも認められています。
- 資本金の送金
- 発起人または設立時の代表取締役もしくは取締役の口座へ資本金を入金します。
- 登記申請
- 日本の法務局に設立登記申請を行います。法務局への持参、郵送、オンラインのうちいずれかの手段で登記申請を行いましょう。
- いずれにおいても登記申請書への記入が必要です。登記申請書は法務局の窓口で受け取れるうえ、オンライン上での直接入力も可能。
- なお申請内容は法務局で審査され、誤りや記入漏れがあれば修正して再申請することになりますので、申請前には必ず最終確認をしてください。
- 登記が完了するまでに、登録免許税を納付する必要があります。納付方法は現金又は電子納付です。
- 登記事項証明書及び会社印鑑証明書の取得
- 登記申請後4日〜14日程度で登録事項証明書や印鑑証明書が取得できるようになります。会社名義の銀行口座開設等で必要になりますので、忘れずに取得してください。登記所又は法務局証明サービスセンターの窓口、郵送、オンラインで請求できます。
- 金融機関の口座開設
- 会社名義の口座を開設します。
- 日本銀行への株式取得の届出
- 金融機関経由で日本銀行に株式取得の届出を行います。業種によっては会社設立の前に届け出る必要があります。
- 法人設立
- 管轄の都道府県税事務所や市区町村、税務署等に法人設立届やその他関係書類を提出し、株式会社設立の完了です。
- 合同会社
合同会社の設立には、概ね1カ月かかります。
- 商号の調査と作成
- 株式会社と同様に、同一所在地で同一商号が使用されていないか確認します。
- 社員(出資者)に関する証明書の手配
- 合同会社では出資者のことを社員といいます。社員となる者の(すなわち、海外企業の子会社として設置する場合にはその海外企業の)登記証明書等の取得ならびに社員となる者の概要に関する宣誓供述書、社員となる会社代表者のサインに関する宣誓供述書等を準備します。申請供述書は本国公証人による認証が必要です。
- 定款作成
- 定款とは、法人の組織活動の根本規則のことです。
- 合同会社の場合、公証人による認証手続きは不要ですが、金融機関での口座開設等に必要ですので定款自体は作成しなければなりません。
- 記載内容は株式会社と同様です。
- 資本金の送金
- 社員は、定款作成後に資本金を送金します。
- 登記申請
- 日本の法務局に設立登記申請を行います。申請方法は株式会社と同様に、持参・郵送・オンラインで実施可能。
- 登記申請書に必要事項を記入し、添付書類と共に申請します。
- 登記事項証明書及び会社印鑑証明書の取得
- 登記申請後4日〜14日程度で登録事項証明書や印鑑証明書が取得できるようになります。
- 登記所又は法務局証明サービスセンターの窓口、郵送、オンラインで請求してください。
- 金融機関の口座開設
- 法人名義の銀行口座を開設します。
- 日本銀行への持分取得の届出
- 業種によっては設立前に届け出る必要があります。
海外企業の日本法人設立に必要な費用
株式会社または合同会社設立にかかる費用は以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | |
定款用収入印紙 | 4万円(電子定款の場合は0円) | 4万円(電子定款の場合は0円) |
定款の謄本手数料 | 2,000円程度 | 0円 |
定款認証手数料 | 3万円〜5万円 | 0円 |
登録免許税 | 15万円〜 | 6万円〜 |
弁護士費用 | 50万円程度 | 30万円程度 |
合計金額 | 約68万円〜 | 36万円〜 |
登記費用の主な違いは、定款の認証手数料と登録免許税です。合同会社は定款の認証が不要で登録手数料も株式会社の半額以下ですので、これらの違いが設立費用の違いにつながっています。しかしそれでも株式会社の設立が少なくないのは、株式会社の優位性が高いことの現れです。12万円の差額を払えば、日本国内でさらに商売しやすくなるということでもあります。
会社設立を弁護士に依頼する場合、その料金は依頼先によって変動します。会社設立だけですと比較的安価で済みますが、設立後のサポートまで依頼すると高額になります。
海外企業に特有の日本法人設立時の注意点
日本法人を設立するにあたり、海外企業がつまずきやすい特有の課題について解説いたします。
- 登記申請時の必要書類
海外企業が日本法人の登記申請をする際には「日本国内で法人を設立するために必要な書類」のほか「海外企業が関わることを証明するための書類」も必要となります。
<海外企業が関わることを証明するための書類一例>
(出所:法務局)
- 海外企業の定款・設立証明書・登記証明書 等
- 海外企業の概要に関する宣誓書
- 海外企業の日本における代表者選任登記申請書
- 海外企業の営業所設置登記申請書 等
- 海外企業特有の定款認証時の必要書類
株式会社を設立する場合は定款の認証を受ける必要がありますが、この時「実質的支配者となるべき者の資格証明書(登記簿謄本)」と「印鑑登録証明書」を準備しなければなりません。
海外企業には日本の登記簿謄本および印鑑登録証明書に該当するものが存在しない場合が多く、そのようなときは上記の代わりになるものを準備し提出します。
- 資格証明書の代替:設立証明書または営業許可書または登記事項証明書または本店所在国の権限ある官公署発行の証明書 等
- 印鑑登録証明書の代替:海外企業代表者のサイン証明書
- 外為法による事前届出
業種によっては日本国外の投資家が日本法人に対して一定額以上の投資を行う場合、事前届出が必要とされています。日本銀行が届出を受理してから30日間は、審査のため登記申請が禁止されますのでご注意ください。
(出所:日本銀行)
<事前届出の必要な業種の例>
- 武器・航空機・宇宙開発・原子力関連の製造業、及び、これらの業種に係る修理業、ソフトウェア業
- 軍事転用可能な汎用品の製造業
- 感染症に対する医薬品に係る製造業、高度管理医療機器に係る製造業
- 重要鉱物資源に係る金属鉱業等、特定離島港湾施設等の整備を行う建設業
- サイバーセキュリティ関連業種(情報処理関連の機器・部品・ソフトウェア製造業種、情報サービ関連業種)
- インフラ関連業種(電力業、ガス業、通信業、上水道、鉄道業、石油業、熱供給業、放送業、旅客運送)警備業、農林水産業、皮革製品製造業、航空運輸業、海運業
- 実質的に必要となる資本金額
日本人が代表の場合は資本金が1円でも会社設立が可能ですが、外国人が代表となり在留資格「経営・管理」を活用する場合、同在留資格の要件としてその事業に500万円以上の資本金があることが条件となります。
<在留資格「経営・管理」の要件の一部>
(出典:出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令)
申請人が次のいずれにも該当していること。
(中略)
- 申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること
- その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する二人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること
- 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
- 上記のいずれかに準ずる規模であると認められるものであること。
つまり、日本在住の従業員を常勤で2人以上雇用しない場合は、基本的に資本金500万円以上が求められることになります。さらに、従業員は「常勤」と定められています。短時間労働のパートやアルバイトは含まれませんのでご注意ください。
- 資本金の送金手続きの煩雑性
定款作成後には出資金を金融機関の口座に振り込みます。この時、下記についてご注意ください。
- 払込先の口座は、発起人または設立時の代表取締役の名義
- 払込先の金融機関は、日本国内の銀行の本支店(外国銀行を含む)または日本の銀行の海外支店に限られる
- 円建てで送金
- 事前届出が不要であっても、設立後の報告が必須
- 業種による許認可
業種によっては、例えば飲食業であれば保健所から食品営業の許可を取得する必要がある等、法人設立時に業界特有の許認可が必要となる場合もあります。
- 外国人経営者の在留資格
日本在住の外国人が経営し、かつ今までの在留資格が経営・管理でない場合、資格変更が必要です。
また、海外在住の外国人が経営する場合は、新しく経営・管理の資格取得が必要です。この場合、設立登記が完了しなければ在留申請の必要書類が提出できませんので、設立準備で来日する際は在留資格なしで入国するか、日本国内在住の信頼できる人に依頼することになります。
会社設立時は資本金払込のために、代表者名義の金融機関の口座が必要になりますが、口座開設には基本的に「日本国内の住所」が必要です。在留資格がなく住所証明が入手できない外国人が口座を作成するのは極めて難しいのです。
- 日本国内でのオフィス賃貸契約
オフィス契約でも、海外企業ならではの注意点があります。
- 日本国籍を持っている連帯保証人が必要
- 多くの場合で、日本国籍のある連帯保証人を求められます。日本国籍だけでなく、収入が一定以上であり日本語が話せるといった条件がつくことも珍しくありません。
- 言語はほぼ日本語のみ
- 会話や契約書といった諸々の取引がほぼ日本語に限定されます。英語や中国語、その他の言語での取引は難しいため、日本語が理解できるスタッフを雇用しておきましょう。
- レンタルオフィスは借りやすいが高額
- レンタルオフィスとは、デスクやチェア等があらかじめ備えられているオフィスのことです。一般的には連帯保証人が不要で、英語等の言語に対応しているレンタルオフィスもあります。ただし一般的に賃貸オフィスよりもかなり高額です。
- 日本の労働法への遵守
企業が日本国内で従業員を雇用する場合、日本の労働法に従う必要があります。代表的なものとして、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法が「労働三法」と呼ばれています。例えば労働基準法では「入社時に労働条件について書面で明らかにしなければならない」と定められており、交付しなかった場合には30万円以下の罰金が科されます。そのため、雇用主は労働条件通知書の作成と交付を行う必要があります。
- 日本の社会保険制度
会社を設立した場合、たとえ従業員を雇用しておらず、代表取締役や代表社員が一人だけの会社であっても原則として社会保険への加入義務が発生します。日本における社会保険は主に、健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険・介護保険を指します。このうち健康保険と厚生年金保険、介護保険については、会社設立後に必ず加入しなければなりません。また労災保険と雇用保険は、従業員を1人でも雇用した場合に加入が義務付けられています。健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は、事業主と従業員でほぼ半分ずつ負担します。労災保険料のみ全額事業主負担です。
煩雑な日本法人設立や雇用の手続きをパスして日本に拠点を設ける方法
本記事で紹介しましたように、日本法人設立や日本国内での雇用を進めるには様々な課題が存在します。自社内で進めることもできるでしょうが、想像以上に時間と労力がかかるでしょう。速やかに、そして確実に日本進出を目指す場合は、EORの利用が最適です。EORとはEmployer Of Recordの略称で、海外での雇用を代行するサービスです。
<EORを利用するメリット>
- 最短1週間から事業を開始可能
- 資本金が不要
- 法人設立に求められる定款の作成や届出、許認可等が不要
- 撤退する場合に法人の清算手続きが不要
- 日本法人を設立せず雇用が確保可能
上記のメリットにより、速やか、かつ低リスクに事業を開始できます。
(詳細はこちらをご参照ください: 雇用代行サービスEORとは?海外からリモート勤務を実施する方法を解説)
現在、日本にはいくつかの外資系EOR業者が存在しますが、日本国外の人間が対応することが多く、日本独自の法律や文化に対応しきれていないこともあるようです。そのため利用の際にトラブルが発生する恐れもあります。
そこで紹介したいのが、日本特化型EORであるNo boundariesです。No boundariesはグローバルなビジネス経験を持つコンサルタントや日本の弁護士がサービスを設計しているため、日本で活動を開始したい海外企業の細かいニーズに対応が可能。最新の法律もカバーしており、トラブルが起こりにくく、安心して任せられます。日本国内で迅速に事業を開始するなら、まずは日本特化型EORのNo boundariesにご相談ください。
本記事の監修者
真鍋希代嗣(No boundaries Ltd. CEO / 京都大学 産官学連携本部 特任准教授)
ジョンズ・ホプキンズ大学 高等国際関係大学院(SAIS) / 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 修士。世界銀行やJICA、マッキンゼーなど複数の国際的な組織での勤務経験を有し、国内外の政府やグローバル企業向けに国際開発や経営のコンサルティングを提供している。日本のほか、米国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、イラク、ヨルダン、南アフリカ、ケニアなどに滞在し国際的な業務経験を有する。